スペイン装甲巡洋艦インファンタ・マリア・テレジア
本艦はスペインで建造された装甲巡洋艦インファンタ・マリア・テレジア級の1番艦で、キューバ派遣艦隊の旗艦としてセルベラ提督の将旗を掲げました。
 同型艦にビスカヤ、アルミランテ・オケンドの2隻が存在し、これらの艦もキューバ派遣艦隊に加わっています。
 当初、スペイン海軍では戦艦を建造する予定でしたが、植民地防衛の必要性から急遽装甲巡洋艦の建造に振り替えられました。
本艦の主砲は口径28センチと当時の装甲巡洋艦としては強力な方でしたが、単装砲塔2基のみと門数は少なく、また弾片防御程度のフードを被せただけの露砲塔でした。
 もっとも、当時は水平弾道で撃ち合うのが当たり前の時代でしたから、露砲塔であることは大きな欠点ではありませんでした。
 日清戦争の戦訓が得られる前に設計された旧式艦ですが、カタログスペックをみる限りは攻防走のバランスが取れた優秀艦で、米西戦争当時は完成から5年程であり、乗組員の習熟度等を考えれば戦力としてピークにあっておかしくないはずの艦でした。
 しかし、実際には完成して以来一度としてまともなメンテナンスをされたことがなく、ボイラーは煤け、シリンダーからは蒸気が漏れっぱなし、砲にしても尾栓に故障が頻発し、何発まともに撃てるかわからない状況でした。
 また、これは本艦のみの状態というわけではなく、スペイン海軍全体が予算不足から機能不全におちいっていました。
 セルベラ提督は、艦隊がこのような状態にあることをかねてから政府に申し立てており、戦争が始まってもまともに戦える状態ではないことを繰り返し報告していましたが、これに対して政府はまったく反応を示さず、セルベラ提督の訴えは無視され続けました。
 そしてとうとう米国との戦争が始まり、キューバ派遣艦隊が出撃する際、セルベラ提督は「立派に戦って死ぬこと以外、何もできはしない」と言い残したそうです。

製作:衛
inserted by FC2 system